大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和48年(行ウ)52号 判決 1974年12月12日

東京都西多摩郡羽村町神明台三丁目三三番地一五

原告

株式会社 岡田製作所

右代表者代表取締役

岡田廣吉

右訴訟代理人弁護士

和田正年

東京都青梅市東青梅四丁目一三番五号

被告

青梅税務署長

水盛五實

右指定代理人

野崎悦宏

佐々木宏中

大渕博義

内海一男

右当事者間の役員退職金否認の裁決処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

被告が、原告の昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度分の法人税について、昭和四四年一二月二六日付でした更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

二  被告

主文と同旨

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は主として電気製品の部品の製造業を営む株式会社である。

2  原告は、被告に対する昭和四三年度(昭和四三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度、以下同じ。)の法人税について、昭和四四年二月二七日課税標準は欠損金一八、〇九二、七六五円、法人税額零円、還付金額二二、三三七円とする確定申告をしたか、その際、原告の元代表者である岡田ハツに対して、同人が二〇年余に亘り原告の代表者としてその経営に尽力した功績に報いるため、退職金として支給した五〇、〇〇〇、〇〇〇円(昭和四三年一〇月一二日の原告の株主総会で決定されたものである。)を損金に算入していたところ、被告は、岡田ハツに対する退職金は一〇、〇〇〇、〇〇〇円が相当であるとして、昭和四四年一二月二六日右退職金五〇、〇〇〇、〇〇〇円のうち、四〇、〇〇〇、〇〇〇円の損金算入を否認して、課税標準額一七、五〇二、五六二円、税額六、三五三、六〇〇円とする旨の更正処分及び過少申告加算税三一八、七〇〇円の賦課決定処分(以下本件更正等処分という。)をした。

3  原告は昭和四五年一月二一日国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和四五年一一月二八日岡田ハツに対する退職金は一九、〇〇〇、〇〇〇円が相当であるとし、前記退職金五〇、〇〇〇、〇〇〇円のうち三一、〇〇〇、〇〇〇円の損金算入を否認して、課税標準額を八、五七六、九六二円、税額を二、七六九、二〇〇円とし、過少申告加算税額を一三九、五〇〇円に減額する旨の裁決をした。

4  しかしながら、原告の岡田ハツに対する退職金は五〇、〇〇〇、〇〇〇円が相当であつて、そのうちの一部につき損金算入を否認した被告の本件更正等処分(前示審査裁決により修正したもの、以下同じ。)は、岡田ハツに対する相当な退職金額を過少に認定した違法があるので取り消されるべきである。

二  請求原因に対する被告の認否及び主張

1  請求原因1ないし3の事実は認め、同4の主張は争う。ただし、原告の岡田ハツに対する五〇、〇〇〇、〇〇〇円の退職金の支払いは、毎月五〇〇、〇〇〇円ずつ百回の分割払いであり、昭和四七年一二月二一日現在の未払金額は二五、〇〇〇、〇〇〇円である。

2  本件更正等処分の適法性に関する被告の主張

(一) 原告の確定申告によれば、原告は昭和四三年度に一八、〇九二、七六五円の欠損金を生じ、法人税額は零とされていたが、本件更正等処分において認定した金額は次のとおりである(いずれも裁決後の金額)。

(1) 加算金額

(イ) 退職金損金算入否認 三一、〇〇〇、〇〇〇円

(ロ) 交際費損金算入否認 七一一、五一三円

(ハ) 交際費限度超過 二、二七一、二四四円

(ニ) 貸付金認定利息 八九〇、〇〇〇円

(ホ) 棚卸計上もれ 六八九、六四七円

(ヘ) 事業税否認 四二、六九〇円

(ト) 売上計上もれ 八〇、〇〇〇円

(加算金計) 三五、六八五、〇九四円

(2) 減算金額

(イ) 給与認容 一、五五一、二四三円

(ロ) 交際費認容 四、〇四六、五三一円

(ハ) 地代認容 三一、二九六円

(ニ) 光熱費認容 一八、九七四円

(ホ) 繰越欠損金認容 三、三六七、三二三円

(減算金計) 九、〇一五、三六七円

(3) 差引申告所得金額に対する加算額二六、六六九、七二七円

(4) 所得金額 八、五七六、九六二円

(二) 岡田ハツの退職金の相当性について

(1) 法人の役員の退職金は、一般には報酬の後払いとして、職務執行の対価たる性格を含むので、業務執行上の費用として損金性を有するものであるが、当該役員の法人に対する貢献度を客観的に測定する基準がなく、実際の個々の具体的な退職金額には多分に益金処分としての性格を有する事例が少くないため、法人税法(以下単に法と略称する。)三六条は、退職給与の金額のうち、損金経理をした金額で不相当に高額な部分は損金に算入しない旨規定し、法人税法施行令(以下単に令と略称する。)七二条は、右不相当に高額な部分の金額につき、役員の業務従事期間、退職の事情、当該法人と同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員退職給与の支給状況等に照らし、退職給与として相当と認められる金額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額とする旨規定している。

そこで、以下右の観点に基づき、岡田ハツの退職給与の相当性につき検討することとする。

(2) 岡田ハツは、昭和二〇年一二月原告会社を創立し、以後昭和四一年八月までの二一年間を代表取締役として、また、それから昭和四三年一〇月までの二年余りを取締役、相談役として、合計二三年間原告の経営に携つていた。これに対し、原告は右岡田ハツに五〇、〇〇〇、〇〇〇円の退職給与を支給したものである。

(3) しかしながら、右退職金五〇、〇〇〇、〇〇〇円は、業務に従事した期間、退職の事情が類似する同種の法人と比較すると不相当に高額なものであり、法三六条、令七二条にいう過大な役員退職給与に該当する。すなわち、原告と同種の事業と認められる金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、精密機械器具製造業を営み、後述するように代表取締役の退職した日を含む事業年度(以下退職年度という。)の期末資本金が一億円以下で退職年度において従業員が三〇〇名以下であり、かつ、退職年度前三年間の平均売上金額が一〇億円以下であるという要件に該当する法人のうち、退職役員が創立者(またはこれに準ずる者)である代表取締役であつてその勤続年数が原告とほぼ同程度のものに対して退職給与を支給(著しく少額のものを除く。)した法人で、原告と同種の製造業の事業所が多数存在する港区、品川区、目黒区、大田区の各区の地域を管轄する芝、品川、荏原、目黒、大森、蒲田の各税務署の調査した法人(以下この法人を単に比較法人という。)における退職給与の支給額及び勤続年数一年当りの退職給与類は、別表一のとおりである。

右別表一によれば、原告が岡田ハツに支給した五〇、〇〇〇、〇〇〇円は、比較法人の平均退職給与額八、〇二〇、〇〇〇円と比べると六・二三倍になるうえ、岡田ハツの右退職金を同人の勤続年数で除した一年当りの退職給与額(以下単に一年当りの退職給与額(あるいは退職金)という。)である二、一七三、九一〇円は、比較法人の一年当りの退職金の平均である三九九、四〇〇円と比べると五・四四倍にも達する。

右の事情より見れば、原告の支給した五〇、〇〇〇、〇〇〇円の退職金が不相当に高額であることは明らかである。

(4) 原告における適正な役員退職給与額について

(イ) 一般に損金に算入すべき適正な役員退職給与額は、次の算式で求められる。

退職給与額=最終報酬月額×勤続年数×功績倍率

右の功績倍率とは役員の法人に対する功績の度合を示すものであるが、岡田ハツの適正な退職金の算出のためには、岡田ハツの原告に対する功績倍率を推定する必要があるところ、これは前記比較法人を基礎として推計方法を略述すれば次のとおりである。

法人の役員退職給与金の算定にあたつては、役員の功績が考慮されるものであり、右功績は客観的には、営業規模、経営成績、財政状態などに顕著に現われるものであるところ、その営業規模、経営成績、財政状態などは、法人の総資産価額、自己資本額、売上金額、公表利益金額及び利益積立金増加額の五つの各要素が主に影響を持つものである。そこで、前記比較法人を母集団として、右の五つの要素と一年当りの退職金との間の相関関係を示す相関係数(各要素が退職金にどの程度影響するかを示す統計学上の数値)を求め、更に、右各相関係数を合計してそれを一〇〇とし、各相関係数相互間の割合を求めることとする(一応退職金に影響を持つのは右の五つの要素のみと仮定する。)。その各要素と相関係数、相関係数相互の百分率は次のとおりとなる。

<省略>

次に、右各要素ごとに各法人(原告を含む。)の実際の数値(金額)を合計し、それを一〇〇として各法人の各数値(金額)の右合計額のうちに占める割合を求め(別表二の各要素の「百分率」欄記載のとおり)、更に、右百分率に、当該要素の相関係数の前示百分率を乗じると、各法人(原告を含む)を通じた各要素の退職金決定に対する影響の度合を示す百分率が算出される(この百分率をウエイトと称し、その明細は別表二の各要素の「ウエイト」欄記載のとおりである。)。

別表二により明らかなとおり、原告の各要素のウエイトの合計は、三・四九パーセントであるところ、原告よりも高いウエイト合計を有する別表二の法人は、A、B、D、E、F、G、H、I、Jである。これらの法人を基礎として原告の正当な功績倍率を求めるのが相当であるところ、そのうち退職金の算定につき功績倍率を全く加味していないことが明らかであるD、G、Hの法人を除く残りの六法人を基準となる法人(以下基準六法人という。)に選定するのが相当である。この基準六法人の功績倍率は別表一、二掲記のとおりであるが(功績倍率の計算方法は右別表一(注)参照)、その平均を求めると二・三(少数第二位以下切り上げ)という数値が得られ、この数値をもつて原告の功績倍率と推定することが相当というべきである。

(ロ) 次に、岡田ハツの最終報酬(月額)を求める。

岡田ハツは、昭和二〇年原告を設立して以来、前述のとおり昭和四一年に取締役、相談役となるまでの二一年間を代表取締役として在任していたものであるが、昭和三六年頃糖尿病などを患つたため、その頃から同人の長男である岡田広吉が事実上原告の代表者として経営に参画していた。このため岡田ハツの報酬は、昭和三八年頃から以後減少している。

しかしながら、最終報酬(月額)を原告に有利に算定するため、次の方法を用いた。すなわち、岡田ハツの在職期間を通じて最高の報酬額である昭和三五年及び昭和三六年の二事業年度の報酬額と原告の取締役で岡田ハツとともに設立以来経営に参加していた小川金蔵の同事業年度における報酬額との比率を求め(右事業年度を平均すると、岡田ハツの報酬(月額)は小川金蔵の報酬の一三五・六パーセントである。)、これを岡田ハツが退職した昭和四三年一〇月における右小川金蔵の報酬(月額)二〇〇、〇〇〇円に乗じて得られた二七一、二〇〇円をもつて、岡田ハツの適正な最終報酬月額と推定できるものである。

また、退職給与額の算出を原告に有利にするため、岡田ハツが取締役、相談役の地位にあつた二年間を代表取締役の勤続年数に加算し、同人の勤続年数を二三年間と見なすこととする。

(ハ) 以上によれば、岡田ハツの適正な退職給与額は次の算式により一四、三四六、四八〇円となる。

271,200円(最終報酬月額)×23(年)23(功績倍率)=14,346,480円

従つて、岡田ハツに支給された退職金のうち、一四、三四六、四八〇円をこえる部分は不相当に高額な金額というべきであり、被告が損金算入を否認した三一、〇〇〇、〇〇〇円は、右の一四、三四六、四八〇円をこえる部分に含まれるものであるから、本件更正等処分は適法である。

(ニ) なお、本件更正等処分において損金否認額を三一、〇〇〇、〇〇〇円と認定した理由は、功績倍率の推計にあたり、最終的に基準となつた六法人のうち、最高の功績倍率を用いていたB法人(別表二参照)の三・〇の数値を採用して次の算式で岡田ハツの適正な退職金を約一九、〇〇〇、〇〇〇円と推認したためである。

271,200円×23×3.0=18,712,800円

三  被告の主張に対する原告の認否

被告の主張2(一)のうち、原告の確定申告の内容の点、本件更正等処分が右2(一)の(1)、(2)、(3)掲記のとおりの内容でなされたこと、そのうち、(1)(イ)掲記の退職金の損金算入否認分の三一、〇〇〇、〇〇〇円以外の項目については、各項目の根拠及び数額はいずれも認め、右(1)(イ)の退職金の損金算入否認分三一、〇〇〇、〇〇〇円については争う。同2(二)のうち、(2)掲記の事実及び(4)(ロ)掲記の岡田ハツが昭和三六年頃糖尿病などを患つて、長男の岡田広吉が事実上原告の代表者として経営に参画していた事実はいずれも認め、その余の主張はいずれも争う。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証を提出

2  原告代表者尋問の結果を援用

3  乙号各証の成立はすべて認める。

二  被告

1  乙第一、第二号証の各一ないし九、第三、第四号証の各一ないし八、第五号証を提出

2  甲号証の成立は認める。

理由

一  請求原因1ないし3の事実については当事者間に争いがない。

二1  そこで、本件更正等処分の適法性につき検討する。原告の昭和四三年度の確定申告に対してされた本件更正等処分が被告の主張2(一)の(1)(2)(3)掲記のとおりの内容であつたこと、本件更正等処分中、退職給与金のうち三一、〇〇〇、〇〇〇円の損金算入が否認された項目以外の項目については、その根拠及び金額につき当事者間に争いがない。従つて、本件の争点は前記退職金の損金算入を否認したことが相当か否かにあるので、以下この点について判断する。

2  法三六条にいう「退職給与の額のうち、当該事業年度において損金経理をしなかつた金額及び損金経理をした金額で不相当に高額な部分」とは、令七二条によれば、当該役員のその法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その法人と同種の事業を営む法人で事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額をこえる場合におけるそのこえる部分の金額をさすものである。

従つて、本件の場合、岡田ハツの退職金がはたして法三六条にいう「不相当に高額な部分」を含むか否かの判断には、その退職の事情等を勘案すると同時に、同種法人で事業規模の類似する法人の役員退職給与と比較して検討することが必要である。

三  ところで、被告が岡田ハツの退職金のうち、損金算入が認められる相当な金額を一九、〇〇〇、〇〇〇円と認定した根拠につき検討すると、いずれも成立につき争いのない甲第一号証、乙第五号証によれば、被告は左のような方法を採用してその結論を導き出したものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。

1  まず、原告の比較の対象となるべき法人(前示比較法人)の選定は、主に都区内を管轄する芝、品川、大森、荏原、蒲田の各税務署において調査の対象を把握することとし、原告と同種の事業と認められる金属製品製造業、一般機械器具製造業、電気機械器具製造業、輸送用機械器具製造業、精密機械器具製造業を営む法人のうち、次の(1)ないし(3)の条件のいずれにも該当するもので、かつ、昭和四二年から昭和四四年までに代表取締役が退職した法人を抽出する。

(1)  資本金 代表取締役の退職年度の期末資本金が一億円以下であること

(2)  従業員数 退職年度において従業員数が三〇〇名以下であること

(3)  売上金額 退職年度前三年間の平均売上金額が一〇億円以下であること

次に、右抽出した法人のうち、更に、次の(1)ないし(3)の条件のいずれかに該当する法人を選択し、そのうち退職給与の支給がない法人及び一年当りの退職金が著しく少額な法人を除いたものを比較法人と選定する。

(1)  資本金額五〇〇万円以上であること

(2)  退職前三年間の平均売上高が一億円以上であること

(3)  右(1)及び(2)の基準に該当しない法人であつても、退職前三年間の平均公表利益が五〇〇万円以上ある場合であること

なお、別表一、二掲記の法人A、Bは、前記各税務署において把握した法人ではないが、本件更正処分の原処分時に原告と比較した法人であつて、前記の各条件に適合しているので比較の対象となる法人に加えることとする。その結果、比較法人として選定されたのは、別表一、二各掲記のAないしJの法人一〇社である。

2  まず、右比較法人と原告との状況につき比較検討すると、次のことが判明する。すなわち、各法人の一年当りの退職金の額を算出すると、別表二のとおり、比較法人のうちではF法人の七一四、〇〇〇円が最高であるのに対し、原告は二、一七七、〇〇〇円にも達している。ところが、総資産価額(総資本額)と売上金額について比較法人と原告を比較すれば、原告は比較法人の中位以下に属しており、次に純資産価額(自己資本金)及び利益積立金について、数年間の推移を追つて比較してみると、原告は右二つの要素につき、いずれも赤字を示し、比較法人のいずれよりも低額となつている。更に、過去の配当支払の状況についてみると、原告は過去五年間に亘り欠損金と累積赤字のために配当を行つていないのに対し、比較法人は一社(無配当)を除いて平均一五パーセント前後の配当を行つている。最後に、公表利益、課税所得金額につき比較すれば、比較法人は大半は高収益をあげているのに反し、原告は退職年度の直前にはかなりの高収益をあげているが、退職年度は大幅な欠損金を生じており(これは退職金の計上が原因である。)、また、過去五年間の欠損金あるいは繰越欠損金控除によつて課税所得金額は零であつて、比較法人の最低に位置することとなる。

3  次に、原告が岡田ハツに支給する退職給与のうち損金に算入するのが相当な額を算出する方法は、次のとおりである。すなわち、前記比較法人のうちから原告と同程度以上の事業規模及び経営成績を有する法人を抽出し、その中から退職役員の法人に対する功績度合を示す功績倍率が考慮されていない法人を除き、残りの法人(前示基準六法人)の平均功績倍率を求めてこれを原告の功績倍率と推定し、次の算式によつて算出する。

適正な退職金=最終報酬(月額)×勤続年数×功績倍率

右の比較法人の功績倍率の中から原告の功績倍率を推定する過程は、被告の主張2(二)(4)(イ)掲記のとおりである。なお、相関係数とは、各要素の数値の変化が一年当り退職金の額の変化を決定する度合を示すものであり、相関係数が一の場合は当該要素で一年当り退職金が完全に決定されることを意味し、相関係数が零の場合は当該要素と一年当り退職金とは無関係であることを意味している。

その結果、原告の功績倍率は、別表一、二掲記の法人A、B、E、F、I、J(すなわち基準六法人)における平均功績倍率二・三(少数第二位以下切り上げ)と推定される。

岡田ハツの最終報酬(月額)は二七一、二〇〇円、勤続年数は二三年とそれぞれ認定され、左の算式により岡田ハツの適正な退職給与は一四、三四六、四五〇円と算出される。

271,200×23年×2.3=14,346,480円

4  ところで、昭和四五年一一月二八日付でなされた国税不服審判所長の裁決においては、岡田ハツの最終報酬(月額)は、前記のとおり二七一、二〇〇円と認定され、その三か月分に勤続年数の二三年間を乗じて得られる約一九、〇〇〇、〇〇〇円(正確には一八、七一二、八〇〇円)と認められているが、被告は右裁決がこれとは別の根拠に依つて、同じく約一九、〇〇〇、〇〇〇円(正確に一八、七一二、八〇〇円)が岡田ハツの相当な退職金であるとしたものと主張していることは前記のとおりである。すなわち、前述の功績倍率を推定するにあたり基準六法人のうち、功績倍率が最高であるB法人の功績倍率三・〇を原告の功績倍率と推定して採用すれば、前記裁決と同様に岡田ハツの適正な退職金を一九、〇〇〇、〇〇〇円(正確には一八、七一二、八〇〇円)と算出できるものである。

四1  そこで、右認定にかかる被告の相当な退職金額の判断過程の合理性につき検討するに、原告が電気製品の部品製造業を営んでいることは当事者間に争いがなく、右電気製品の部品製造業は、比較法人の選択基準となつた前記精密機械器具製造業、電気機械器具製造業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業とは同じ製造業であつて製造製品に類似点が多いので、令七二条にいう「「同種の事業を営む」ものということができると解される。

更に、いずれも成立につき争いのない乙第一号証の九、第二号証の一、六、九、第三号証の一、六、第四号証の一、六、原告代表者尋問の結果によれば、岡田ハツの退職年度において、原告は、資本金九、五〇〇、〇〇〇円、従業員数約五〇名であつて、退職年度前三年間の平均売上高が約二億一六九六万円(昭和四一年度が、約一億三四三七万円、昭和四二年度が約二億二一三三万円、昭和四三年度が約二億九五二〇万円)であることが認められ、右のような事業規模を有する原告と比較して令七二条にいう「その事業規模が類似する」法人を選択する際の基準として、被告が採用した前記の基準は相当なものということができる。また、前顕乙第五号証によれば、別表一、二掲記の法人A、B、C、D、E、F、G、H、I、Jは、いずれも前記基準に合致するものであることが認められ、従つて、前記AないしJの法人は、原告が岡田ハツに支給した退職給与が相当であるか否かを判断するにつき、比較の対象とする法人として適当なものということができる。

2  ところで、前記認定事実によれば、原告は、比較法人と比べて営業規模を量る指標と考えられる売上金額及び総資産価額においては中等に位置するもので決して抜群の営業規模を有するものではなく、また、経営状態を量る尺度である純資産価額、利益積立金についてみれば、原告はいずれも赤字を示し、比較法人よりも低額となつている。そして、原告は過去五年間無配当であり、公表利益も岡田ハツへ退職金を支払つたため大巾な欠損金が生じており、課税所得金額も退職年度前は数年間零という状態が続いていたのであるから、以上のような経営状況からすれば、原告が比較法人と比べて特に多大の退職給与金を支払うことができるほど余裕があるものと推認することはできない。原告代表者尋問の結果によれば、五〇、〇〇〇、〇〇〇円の退職金の支払いは、月五〇〇、〇〇〇円の割合による一〇〇回の分割払いで行なわれること、原告代表者岡田広吉は、退職年度の純利益がやや上向き加減になつていたので、月五〇〇、〇〇〇円の分割払いならば完済可能であるとの考えに至つたことが認められるのであるが、このことはむしろ原告にとつて五〇、〇〇〇、〇〇〇円の支払いが大きな負担となつていたことを推認させるものというべきである。

以上によれば、原告が岡田ハツに支払つた五〇、〇〇〇、〇〇〇円の退職金は、比較法人との比較の結果及び原告の諸事情等を勘案してみても、不相当に高額なものであつて、その全額の損金算入は到底認めることができないものであることは明らかである。

3  そこで、原告の岡田ハツに対する退職給与の相当額につき検討することとするが、そのためまず岡田ハツの勤続年数及び最終報酬(月額)について判断する。

(一)  岡田ハツが昭和二〇年に原告会社を設立して以来、昭和四一年まで原告の代表取締役に就任していたこと、その後は引き続いて昭和四三年一〇月に原告を退社するまでの二年間取締役、相談役に在任していたことは当事者間に争いがない。従つて、岡田ハツは二一年間を代表取締役、最後の二年間を取締役、相談役として合計二三年間原告に在職していたものであるが、退職金の算出にあたつては、最後の二年間も代表取締役に在任していたものと見なすのが原告に有利であるから、被告が右二三年間を全部代表取締役に在任していたものと見なして計算したのは相当というべきである。

次に、岡田ハツの在職期間を通じて、昭和三五年、昭和三六年の二事業年度において、岡田ハツに最高の報酬額が支払われたこと、その事業年度において、岡田ハツの報酬(月額)は、岡田ハツとともに原告会社の設立以来経営に参加してきた取締役である小川金蔵の報酬に比べると、平均して一三五・六パーセントに達すること、岡田ハツが退職した昭和四三年一〇月における右小川金蔵の報酬(月額)は、二〇〇、〇〇〇円であつたことはいずれも原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。

以上の事実によれば、被告が右小川の報酬(月額)二〇〇、〇〇〇円の一三五・六パーセントに当る二七一、二〇〇円をもつて、岡田ハツの最終報酬(月額)と認定したのは相当であるということができる。

(二)  そこで岡田ハツの適正な退職金額を検討するに、前顕乙第五号証によれば、比較法人を母集団として相当な退職給与を算出する方法は次の四通りが考えられる。すなわち、

(1) 比較法人AないしJの一〇社における一年当りの退職金の単純平均額をもつて原告の適正な一年当りの退職金と推定し、これに岡田ハツの勤続年数を乗じて算出する方法

(2) 比較法人一〇社の平均功績倍率を求め、これを原告の功績倍率と推定し、次の算式で算出する方法

最終報酬(月額)×勤続年数×功績倍率

(3) 比較法人のうちから、原告と同程度以上の事業規模または経営規模並びに経営成績を有する法人を判定抽出し、その法人の一年当りの退職金の平均額をもつて原告の一年当りの退職金と推定し、前記(一)掲記の方法で算出する方法

(4) 前記(3)掲記のように抽出した法人のうち、退職金の支給に際して功績倍率が考慮されていない法人等特異な法人を除外して基準となる法人を選定し、この基準法人の平均功績倍率を原告の功績倍率と推定して前記(2)の算式により算出する方法

右の方法のうち、被告が採用したのは、前記認定のとおり、(4)の方法であるが、ここで別表二に基づき、右(1)ないし(3)の方法で岡田ハツの適正な退職金を算出してみれば、(1)の方法によれば九、一七七、〇〇〇円、(2)の方法によれば一三、〇九八、九六〇円(功績倍率の平均を求めるにあたり、功績倍率を全く加味していない法人は除外した。)、(3)の方法によれば一〇、九九八、六〇〇円となる。

しかしながら、被告の採用した(4)の方法によれば、前述のとおり、適正な退職金は一四、三四六、四五〇円となつて、原告に最も有利であるばかりでなく、退職金算定にあたり功績倍率を加味している点及び功績倍率を求めるに際して退職金算出の根拠の相当性(妥当性)か原告よりも相対的に高い法人を選択して(被告の主張二2(二)(4)(イ)掲記の方法を採用している。)基準法人としている点で、一層厳密なものということができる。これらの理由により、本件の場合、岡田ハツの退職給与のうち、損金に算入することが相当な額は前記(4)の方法で算出した一四、三四六、四八〇円と認めるのが相当である。

4  以上の点から明らかなように、岡田ハツの退職給与の相当額は、一四、三四六、四八〇円と認めるべきであり、従つて、五〇、〇〇〇、〇〇〇円の退職金のうち、損金算入を否認すべき額は、三五、六五三、五二〇円となるところ、本件更正等処分においては右の範囲内において三一、〇〇〇、〇〇〇円につさ、損金算入を否認したにすぎないのであるから、何ら違法の点はないというべきである。

五  以上によれば、原告の本訴請求はすべて理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 上田豊三 裁判官 慶田康男)

職の実態

<省略>

別表一 比較法人等の退

<省略>

(注) 功績倍率は次の計算によつて算定したものである。

<省略>

別表二 比較法人と原告の退職金算定ウエイトの比較

<省略>

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例